メンタルトレーニングで何が変わる?

メンタルトレーニング

メンタルトレーニングで出来る事と出来ない事

私はこれまでプロ・アマチュア問わず、多くのアスリートたちに禅をベースにしたメンタルトレーニングをしてきました。私が指導するアスリートたちの多くは、メンタルトレーニングをれば感情と身体反応が鍛えられる、と期待してやって来ます。そこで、私がまず最初にメンタルトレーニングをしようとするアスリートたちに伝えるのが「感情と身体反応は、メンタルトレーニングで鍛えることはできない」ということです。

アスリートたちは期待外れな思いで最初はモチベーションが下がりますが、「メンタルトレーニングで何が変わるか」をじっくり説明すると理解し、真剣にメンタルトレーニングに取り組んでくれます。メンタルトレーニングを始めるあたり、メンタルトレーニングで何が変わるかをしっかりと理解することが大事です。

自信、強気、弱気、不安、緊張、喜怒哀楽に代表される「感情」、そして緊張して手に汗をかいたりドキドキしたりするといった身体の反応は、意識してコントロールできるものではありません。

なぜなら「感情」と「身体反応」は、反射・反応・自律神経系によって働くものだからです。実際に、どんなトップアスリートでも緊張して感情を抑えることはできないし、汗の量をコントロールすることもできません。

メンタルトレーニングをするにあたり、感情と身体反応を劇的に改善できるといった期待を持つのはやめましょう。メンタルトレーニングではメンタルトレーニングで「出来る事」(どこが鍛えられるのか)を意識して取り組むことが大切です。

メンタルトレーニングで鍛えるところ

では、メンタルトレーニングによって、どこを鍛えることができるのでしょうか。メンタルトレーニングで鍛えることができるのは、「思考」と「行動」です。

「思考」と「行動」は常に結びついています。思考(考えた方)はメンタルそのものであり、考え方を変えていくと行動も変わり、結果も変わっていきます。これは多くのトップアスリートが座右の銘にしている「心が変われば行動が変わる 行動が変われば習慣が変わる 習慣が変われば人格が変わる 人格が変われば運命が変わる」というウィリアム・ジェイムズ(心理学者、哲学者)の言葉と同じことですね。メンタルトレーニングで鍛えるところは、思考(考え方)、しかも「行動が変わる思考」ということを常に意識しておきましょう。

思考と行動についてより詳しく知りたい方は、スポーツの世界でも十分に通じるコチラがおススメ
👇

思考を変えるには、特に試合後・練習後が大事です。試合や練習のやりっぱなしは、今後のプレー(行動)に何の影響ももたらしません。もし試合や練習後にミーティングをチーム内で行ったとしても、その場限りのミーティングで話した内容は、三日後には全て脳から忘れ去られてしまいます。また試合中や練習中のミスの指摘は、その後のミーティングの際によく話し合われますが、それでも同じミスは繰り返されます。ということは、ミーティングでミスや改善点をどんなに話し合ってもそれほど効果はないということがわかります。

練習や試合後のミスや改善点の指摘は個人批判にもなりやすくなります。一人のモチベーションが下がると、そのマイナス思考がチーム全体に広がり、チームの雰囲気が一気に悪くなります。なぜミスの指摘は良くないかというと、悪い点ばかり指摘するとミスした残像が脳に残り、悪いパフォーマンスが本当の自分の実力というふうに脳が勝手に判断するようになってしまうからです。

練習や試合後のミーティングではミスや改善点の指摘よりも、むしろ「できたこと」や「よかったこと」をしっかりと確認してチーム全体で共有することが大事です。それによって「このプレーはいいんだ」「あのプレーをまた再現できるようにしよう」というふうに、「できたこと」「再現すべきプレー」が再確認できます。そうすると、よかった時のプレーの残像が脳に残り、「良いプレーができる自分」というキャラクターが立って、必然的に脳がポジティブ思考になり、ひいては次の練習や試合で良いプレーの再現につながります。もしミスや改善点を指摘するなら、全体の3割程度、その倍以上の7割はできた事やよかったプレーを確認するミーティングにすることをお勧めします。

自分の思考と行動の癖を知る

人には誰にでも思考と行動に癖があります。ポジティブに考える人もいれば、ネガティブに考える人います。まずは自分の思考と行動の癖をしっかりと知っておきましょう。自分がどのように考えてどのように行動するか、その癖を知っておくことで、思考と行動を変えやすくになります。

自分の思考と行動の癖を知るには、以下のような簡単な質問を自問自答してみください。こうした質問に応えるだけでも自分がどのように考えるのか、どのように行動しがちなのかがわかってきます。

  • 試合(練習)前に何を考えていたか
  • 試合(練習)前に何を自分に言い聞かせいたか
  • 試合(練習)前に何をしていたか
  • 試合(練習)中は何を考えていたか
  • 試合(練習)中は何を自分に言い聞かせていたか
  • 試合(練習)中はどんなプレーをしていたか
  • 試合(練習)中の一番良い時とと悪い時の違いは何か
  • 試合(練習)中に集中できなかった時に何を考えていたか
  • 試合(練習)中はどこに集中していたか
  • 試合(練習)中の自分で変えたいところはあるか

上記の質問に自分なりに答えてみてください。そして試合や練習の前後にノートやスマホに2週間記録してみてください。きっと自分の思考と行動の癖が浮き彫りになって来るはずです。

メンタルトレーニングの習慣化

試合(練習)前や試合(練習)中の自分の思考と行動をしっかりと文字化して理解できれば、パフォーマンスが良くない時に自分の思考や行動を修正しやすくなります。

これはアスリートだけではなく、監督やコーチにとっても大事なことです。監督やコーチがアスリートの思考と行動の癖や特徴をしっかりと把握しておくと、アスリートが自分では気がついていないところやその場に応じた的確なアドバイスができます。

例えば、プレイヤーがキャッチミスを連発している場合、単に「集中しろ」と抽象的なアドバイスをするのではなく、「ボールから目を逸らすからボールを落すんだ。ボールをもキャッチするギリギリまでしっかりと見て、手を大きく開けてキャッチしろ」と具体的なアドバイスができるようになります。もしミスして下を向いているプレイヤーには「気合を入れろ」ではなく、「顔を上げろ」といったアドバイスができます。

アスリートの思考が変わり、変わった思考が行動も変えていく、これがメンタルトレーニングの成果なのです。メンタルをトレーニングしていくと、まず言葉が変わってきます。ネガティブな言葉が減り、行動を変えるようなポジティブな言葉が増えていきます。思考(考え方)も変わり、結果として行動も変わります。自分が今やるべき行動が何かはっきりとわかってくると、パフォーマンスも向上していきます。こうしたことを2週間続けると習慣化し、3ヶ月続けるとそれが当たり前のようにできるようになります。だからメンタル強化にはトレーニングが必要なのです。