出世のススメ

禅のちょっといい噺

出世したい

出世したい人にとって、他人の出世ほど悔しいものはありません。

特に「今度こそ自分の番だ」と出世を期待している人は、他の人に先を越されたら、「なぜ自分ではなく、あの人なんだ」「自分の方ができるのに」「実力ではなくゴマスリだ」と嫉妬します。

勝手も負けても眠れない

『法句経』にこのような一節があります。

    勝つ者は恨みを受く 負ける者は夜も寝られず 
    勝負を離れる者は、寝ても覚めても安らかなり

会社人にこの言葉を当てはめると、「出世した人は妬まれ、出世しなかった人は夜寝られないほど悔しい。他人と競ったり、比較したり、意識したりすることをやめない限り、いつまでも心は安堵しない」と解釈できます。

一般的な指南書なら「だから出世欲を抱いてはならない」と簡単に結論づけるかもしれませんが、禅はそのような偽善的・非現実的な説教を嫌います。

禅が奨める出世のかたち

むしろ禅は出世欲を否定しません。出世は働くモチベーションになりますし、ましてや出世して得た権威を使うことによって世のため人のためになるのであれば、出世欲を持つことをあえて勧めるのが禅の教えです。

全く出世欲を持たずにただ無欲無心のまま働くことができるのは、無感情のロボットか聖人君子のどちらかでしょう。人間である限り、欲をゼロにするのは難しいことです。そこで、禅は欲の全てを否定せず、程々の欲で満足し、他の人の存在にもしっかり気配りすることを大切にします。つまり、悟りは自分の為だけでなく、人を助けるためのもの、ということです。

「大欲は無欲に似たり」と言います。大きな欲を持つ者は、小さな利益に一喜一憂しないので無欲に見える、欲を大きくすると結局は無欲に近づいていきます。利他実現も含んだ欲で、それが大きくなればなるほど、他人を妬むことはなくなります。