仕事は命よりも大切ですか?

禅のちょっといい噺

ストレスだらけの世の中

厚生労働省の最近の調査によると、労働者の六割が仕事で強い不安やストレスを抱えています。これだけ多くの人々が職場で精神的に辛い思いをしているのですから、一年で600件以上にも及ぶ鉄道での人身事故も頷けます。

実は私の知人も、五年前に電車に飛び込んで亡くなりました。仕事のことで少し愚痴をこぼしていましたが、亡くなる一ヶ月前にハガキが届き、そこには年末の挨拶と近いうちに会えることを楽しみにしているといった内容が綴られていました。まさかハガキをもらった1週間後に自ら命を絶った知らせを聞いた時はとても驚きました。

知人もハガキを書いている時は死のうとは思っていなかったに違いありません。しかし心のメーターが振り切れしまったのか、知人は自分の精神的苦痛の唯一の対処方法として自らの身体機能を止めることを選んだのです。

遺書には仕事での人間関係に疲れたといった旨の文章が書かれていたそうです。彼は仕事を辞める勇気がなかったために、仕事でのストレスを最期まで発散することができませんでした。

次はあなたの番かも?

職場での悩みとその度合いは人それぞれです。上司や部下などの人間関係が原因かもしれませんし、残業の多さかもしれません。仕事にやりがいを感じることができない人もいるでしょう。あまり悩んでいないように見えても、実は大変落ち込んでいる可能性もあります。

ただこうしたストレスの積み重ねがマックスに達した時に、人は衝動的に自らの命を絶つという選択を選びます。そこまで極端でなくても鬱状態になったり落ち込んだりする人はたくさんいます。そうなると通勤前に体調不良になったりストレス発散のために変な行動に出たりなど、私生活にも悪影響を及ぼします。これら二次的被害と自ら命を絶つという行為は程度の問題であって、根本的には心の不健康な状態に起因しています。

精神疾患の患者数は300万人を超えていると言われています。自覚症状がなかったり病院に行っていない人を含めるとこの数字は更に増えます。では、このようにならないためにどうすれば良いのでしょうか。

逃げ道を常に持っておこう!

「道に横縦無し 立つ者は孤危なり」という禅語があります。これは脇道もない大きな一本道に立つ人はとても危ないという意味です。

一本の大きな道は誰もが使う道で、また誰もが知っているので安心して通ることができます。しかし一本道道は脇道がないので、あちらから車が来た時に避ける場所がありません。こういう道はとても危険な道でもあります。

この禅語を職場で悩んでいる人に当てはめるとこうなります。もしあなたが職場で限界ギリギリまで頑張ってもうこれ以上無理という状態であるなら、勇気を持って職場から逃げるということを真剣に考えてみる、そして実際に会社を辞めるということも立派な選択肢の一つです。

自分の人生に脇道に逸れる選択肢を持っていないと、いざという時に対処できず、最終的に苦しい状況に追い込まれてしまいます。「逃げる」という言葉に決して「負け」という意味はありません。もし「逃げる」という言葉に抵抗を感じるならば、「人生をもう一度見直す」「リセットする」と捉えてはどうでしょうか。

無理して身心の健康を犠牲にしてまで仕事を続ける必要はありません。仕事を辞めて少し無職の期間があっても、そこにしっかりと身心を休めるという理由があれば何の問題もありません。心身をリセットしてまた新しい出会いと仕事をしっかりと遂行するための休息であり、休んだ後には前向きな将来が待っていると思えば、迷うこともないでしょう。

命より大切な仕事なんてない!

会社に迷惑をかける、上司や部下に申し訳ないとは考えず、自分本位の考えで自分を大切にして良いのです。なぜなら会社も上司も部下も誰もあなたの将来の人生を保証してくれないのですから。

禅は、「心頭滅却すれば、火自ら涼し」(どんな辛いことがあっても逃げてはならない)という禅語に代表されるように、徹底的に耐えることを主張する厳しさを持つ反面、それでももしこれ以上頑張ることができなければ、逃げても良いという慈悲の一面もしっかりと持ち合わせています。 

とは言っても、先立つものがなければ中々会社を辞められないと思う人もいるでしょう。職場を去りたいと決めた後にすぐに行動に移すには、

    (1)自分の限界を知っておく
    (2)お金を貯めておく
    (3)逃げた後に行く場所を用意しておく

この3つの脇道をしっかりと準備しておくと、精神的に少し楽になるはずです。あなたは人生というメインロードにどれだけの脇道がありますか。