白隠禅師のマインドフルネス 「輭酥(なんそ)の法」

マインドフルネス

1 「輭酥(なんそ)の法」って何?

今回は、白隠禅師が提唱したマインドフルネス、「輭酥(なんそ)の法」を紹介します。
「酥」(そ)は牛や羊の乳を発行させて煮詰めたもの、今でいうとチーズやバターのことで、それをやわらかくした食べ物が「輭酥」(なんそ)です。

「輭酥(なんそ)の法」は、白隠禅師の著作『遠羅天釜』全三巻の巻之中「遠方の病僧に送りし書」で紹介されています。

「輭酥(なんそ)の法」は、丹田に気を集中させ、ゆっくり深く腹式呼吸します。ただその際、ドロドロと溶けるチーズ・バターを想像します。チーズ・バターを頭に置いて、それが徐々に溶けていき、それが上半身から内臓、そして足の裏まで体内を温めるようにイメージします。

2「輭酥(なんそ)の法」の原文

『遠羅天釜』ので紹介されている「輭酥(なんそ)の法」とはどういうマインドフルネス法なのでしょうか。原文を引用してみましょう。

茲に又一方あり尤も虚弱の人に宜し。心気の労波を救ぶ事甚だ妙なり。
上昇を引き下げ、腰脚を温め、腸胃を調和し、眼を明かにし、真智を増長し、一切の邪智を除く事大いに効あり。

輭酥丸一剤、諸法実相一斤、我法二空各一両、寂滅現前三両、無欲二両、動静不二三両、糸瓜の皮一分五厘、放下着一斤、右七味忍辱の汁に浸す事一夜、陰乾して抹す。例の通り般若波羅蜜を以て調錬し、丸して鴨卵の大さの如くならしめて、頂上に安着す。

初心の行者は薬種如何、斤両如何を観ずべからず。只色香微妙の輭酥、鴨卵の大さの如くなる者、我が頂上に頓在すと観ず。病者このくすりを用いんと要する時、厚く坐物を敷き、脊梁骨を竪起し、目を収めて端坐し、徐々として身心を淘定して、須く思惟すべし。大凡そ生を保つの要、気を養ふに如かず、気尽くる時は身死す、民衰ふる時は国亡ぶるが如しと。此の語を三復し畢つて、正に此の観を成すべし。

彼の頂上に安着する輭酥鴨卵の如くなる者、其の気味微妙にして、遍く頭顱の間を潤し、浸々として潤下し来つて、両肩及び双臂両乳胸膈の間、肺肝腸胃脊腎骨次第に沾注し将ち去る。此の時、胸中の五積六聚諓疝癖塊痛、心にしたがつて降下する事、 水の下におもむくが如し。歴々として声あり。遍身を流へ潤して、下つて双脚を温む、足心に至つて即ち止む。

行者再び此の想念を成すべし。彼の浸々として潤下する所の余流積り湛え、暖め醮して、恰も世の良医の種々に妙香の薬物を聚め、此を前湯して浴盤の中に盛り湛えて、我が臍輪以下を漬浸するが如しと。此の観を成す時、唯心所現の故に、鼻根希有の香気を開き、身根妙好の輭触を受け、身心共に調適なり、乍ち積聚を消融し、腸胃を調和し、肌膚光沢を生じ、大に気力を増す。若し時々に此の観を成熟せば、何れの病か治せざらん。何れの仙か成ぜざる。此れは是れ養生の秘訣にして、長生久視の妙術なり。

此方始め金仙氏に起つて、中頃天台の智者大師に至つて、大に労疲の重痾を治し、且つ其の兄陳泰が必死を救ふ。澆末難遭の霊方なり。宣哉、此道今人知得する底希れなることを。老僧、中頃道士白幽に聞く。効験の遅速は行人の勤と怠とに在るらくのみ。怠らざれば長寿を得。

より詳しく参照したい方は、『白隠禅師法語全集 第9冊 遠羅天釜』を一読ください。

3「輭酥(なんそ)の法」の効能

白隠禅師は「輭酥(なんそ)の法」の効果をこのように説明しています。

「虚弱の人に宜し。心気の労波を救ぶ事甚だ妙なり。上昇を引き下げ、腰脚を温め、腸胃を調和し、眼を明かにし、真智を増長し、一切の邪智を除く事大いに効あり。」

簡単に言うとこうなります。
・特に身体が虚弱な人によい
・心気の疲労からの回復によい
・熱を抑え、足腰が温かくなり胃腸が良くなり眼もすっきりとする
・邪念が消える

4 輭酥(なんそ)の作り方

輭酥丸一剤を作るにあたって7つの成分を配合します。

(1)諸法実相一斤
(2)我法二空各一両
(3)寂滅現前三両
(4)無欲二両
(5)動静不二三両
(6)糸瓜の皮一分五厘
(7)放下着一斤

7つの更に詳しい説明はこちら👇
https://note.com/notes/n8812068e1ffe/edit

この配合から白隠の考える仏教の教えの優先順位がわかります。この成分を比率にしてみるとこうなります。

    諸法実相 38%
    放下着 38%
    寂滅現前 7.2%
    動静不二 7.2%
    我法二空 4.8%
    無欲 4.8%

5 輭酥の法の実践

輭酥を頭の上に乗せます。
初心者の場合は、7つの成分の配合などは考えずに、色や香りがいい鴨の卵ぐらいの輭酥が頭に載っていると考えるだけでよいということです。
病人は厚い座布団の上で、半眼となって姿勢を正して坐禅を始めます。

身心が落ち着いてきたら、
「まずは命を長らえるためには気を養うことが最も大事である。気が尽きると命は途絶えてしまう。それはあたかも国民が衰えたら国が亡びるような者である」と心の中で三度繰り返します。

その後、このようにイメージします。
頭の上に置いた鴨の卵の大きさの輭酥が溶けて頭から首にかけて潤し、次第に両肩、両手、胸を流れ、心臓・肺臓・脾臓・肝臓・腎臓を潤し温めていく。その過程で段々悩みや痛みが心と一緒に身体の下の方に水のようにさらさら流れて、全身を潤して、最後に両脚そして足の裏にまで行き渡りそこでとまる。

ここまで出来たら、再度、心で「頭から溶けて最後に足の裏まで身体全体を浸し流れ、両脚が温かくなる現象は、まるで、世界中にある良薬を集めて煎じて風呂に入れて、半身入浴しているのと同じである」と思いを巡らします。

そうすると、心が顕わとなり、鼻には絶妙な香り漂い、 身体全体が軟らかく包まれ、身心が調ってとても快適になります。そう感じると、身体に蓄積された毒が消え去り、胃腸も調子が良くなり、肌につやもでて、気力がとてもみなぎってくる。

これが白隠禅師が残した「輭酥の法」の全容です。

6 輭酥の法で伝えたかった真実

白隠禅師は、輭酥の法によって死に至る病から一生を得たという自信と経験をもとに、白隠禅師に助けを求めてきた病人たちを救ってきたことは、白隠禅師の言葉からわかります。

    輭酥の法こそが、養生の秘訣であり、長生きのコツである。
    この法は釈尊が始めて、高祖天台智者大師が実践し、多くの人々を救い、実兄も救った方法であるが、今日この方法を知る人はいない。
    輭酥の法は、どれだけ真剣に行ったかによって効く効かないは差が出てくるものだが、怠らずに熱心にやり続ければ長寿を全うできるはずである。