柳が風を通すが如く、逆境もスルーしよう!

禅のちょっといい噺

これは、私の先輩であるKさんの話です。

酒屋を営む父親から「高校進学はさせない。中学卒業後はすぐに自営の手伝いをするように」と言われ続けたK少年。

K少年は、酒屋を営む父親はK少年の本当の父親ではなかったからか、日々、父親からDVを受けていました。また、父親は「高校進学し、大学に行って将来は教員になりたい」というK少年の希望を絶対に許しませんでした。

K少年は、学校の先生に相談して、ついに中学二年生の夏休みに仙台の実家を家出して、川崎に移り住み新聞奨学生として自立した生活を始めました。

しかし新聞配達している噂が転校先の中学校で広がると、「中学生は働いちゃダメなんだぞ」「授業中に寝てばっかじゃねえか」など言われて傷つくことも日々ありました。

K少年が一番つらかったことは、夕刊配達があるために大好きな野球部に入れず放課後の部活に参加できなかったことです。

身体的にも精神的にも辛い生活が続き、新聞配達の下宿先から何度も逃げ出しましたが、結局行き場がなくて下宿先に戻ることもしばしばありました。

そんな時に、転校先の担任の先生が、強風に煽られた柳が描かれていている禅画を見せてくれました。その禅画には、「堪忍」と力強い太字の横に「気に入らぬ風もあろうに柳かな」と書かれてありました。K少年はどういう意味かわからなったので先生に聞いてみると、「嫌なこともある人生、柳のように何事も受け流しなさい」という意味だと教えてくれました。

K少年は、その絵をみながらこんなことを感じたそうです。
・柳のようにしなやかになれば、どんなに強風が吹いても折れることはない
・幹がボキっと折れてしまえば二度と元通りにならない
・人間も逆境に絶えようと構えて力を入れすぎると、心がおれてしまう

堪え忍ぶには、我慢という受け身だけの姿勢ではなく、能動的な姿勢も大事です。それは、嫌なことを言われた人、親、自分の環境を恨んで仕返しをするということではなく、前向きな行動を淡々と継続することでもあります。K少年は、きっとこんなことを柳の禅画を見て直感したのかもしれません。

それから、K少年は、新聞配達を一分でも早く終わるように自分なりに工夫して、空いた時間で受験勉強に励みました。難しく考えずに、何事も淡々と日々のルーティーンをこなそうと思い直した結果です。

K少年は大学卒業まで新聞奨学生を続け、今では高校の先生として活躍しています。そして、自分が入部できなかった野球部の顧問にもなっています。